「民泊清掃の単価、いくらで請けたらいいですかね」と、去年の秋に台東区の物件を担当してくれた清掃業者さんから相談されたことがあります。その方は個人で始めたばかりで、周りの業者に合わせて1件4,500円で受けていた。ただ、繁忙期になるほど疲れが抜けなくて続けられる気がしない、と。
発注する側の私から見ても、その単価は正直、安すぎます。ゲスト送り出し後の2時間で回転させるあの負荷を考えたら、単価4,500円だと時給換算で最低賃金を割ってしまう。だから続かない業者が多いし、結果的にオーナー側も繁忙期に枠が取れなくて困る。この記事は、清掃業者側が単価を決めるときの考え方を、発注する側のオーナーから見えている景色で整理したものです。
私は都内で3物件(新宿区のワンルーム、台東区の1LDK、大田区のワンルーム)を兼業で運営しています。過去5年で7社と契約を切り替えてきた発注側の立場から、単価設定の根拠と、オーナーに納得してもらう伝え方まで書きます。
この記事の要点
- 民泊清掃の単価は「作業時間×時給+原価+利益」で組み立てるのが基本で、東京のワンルーム1件60〜90分・1LDK90〜120分の実測が起点になる(編集部調べ・広さと汚れ具合で変動)。
- 東京都の最低賃金は令和7年10月3日から時間額1,226円に改正されており、時給の下限はこの水準を割ってはいけない。
- 2023年11月に公取委と内閣官房が公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」で、労務費の価格転嫁は正当な交渉事項と明記されている。
- 2024年11月施行のフリーランス新法により、発注事業者側にも取引条件の明示義務や不当な取引条件の禁止が課されている。
- 編集部調べで東京の民泊清掃1件あたりの実勢はワンルーム3,500〜7,000円、1LDK6,500〜11,000円、2LDK8,000〜13,000円(時期・繁忙期・リネン込みかで変動)。
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民泊清掃の単価を決めるときの基本式
民泊清掃の単価は、感覚で決めると必ず崩れます。私が業者から見せてもらった見積書のうち、続いている業者は例外なく「1件あたりの作業時間×時給+交通費+消耗品原価+利益」の式で単価を組み立てていました。感覚で「4,500円」と丸めていた業者は、半年で撤退したり値上げ交渉で揉めたりする確率が高かった、というのが私の観察です。
まず作業時間。都内の民泊で私が計測した範囲だと、ワンルーム25㎡でリネン交換込み60〜90分、1LDK45㎡で90〜120分、2LDKで120〜150分が現実的な線です。ここに移動時間30〜60分と、写真報告・鍵の受け渡しで15分ほど乗る。つまりワンルーム1件でも実質2時間強を拘束されるわけで、時給ベースで考えないと数字が合いません。
そして時給の下限は、法令で決まっています。東京都最低賃金は令和7年10月3日から時間額1,226円に改正され、都内で労働者を使用するすべての事業場に適用されます。個人事業主として自分ひとりで動く場合でも、この水準を下回る時給で見積もると、スタッフを雇った瞬間に赤字になる。単価設計の起点はここです。
最低ラインの計算例(新宿のワンルームで検算)
私の新宿の物件で試算します。作業75分+移動往復40分+報告15分=約130分(2.17時間)。時給を最低賃金の1,226円で置いても2,660円。ここに交通費600円、リネン仕入れ1セット400円、消耗品100円、掃除機・洗剤の減価償却1件あたり200円を乗せて約3,960円。ここに20%の利益を乗せて4,750円。これがギリギリの下限で、実際は時給を1,600〜1,800円で置かないと人を雇えないので、5,500〜6,500円が現実的な単価になります。
私が過去に切った業者は、この計算をしていませんでした。「周りが4,500円だから4,500円」で受けていた。単価4,500円は時給1,226円の最低賃金水準で見ても、原価と利益を乗せると成立しない。持続不能な単価で受注すると、繁忙期に急に「あと2,000円ください」と言われる。オーナー側からすると、それが一番困る。
東京の民泊清掃、単価の実勢レンジ
単価を決めるとき、周辺相場は必ず押さえておくべきです。オーナー側は必ず相見積もりを取るので、極端に高い数字だと最初の返信すら来ません。逆に安すぎる数字は「大丈夫か?」と警戒される。編集部調べで、東京の民泊清掃1件あたりの実勢レンジは以下の通りです(2025年時点、時期・条件で変動)。
| 広さ | 作業時間目安 | 単価レンジ(東京) | リネン込みの目安 |
|---|---|---|---|
| ワンルーム(〜30㎡) | 60〜90分 | 3,500〜7,000円 | 4,500〜8,000円 |
| 1LDK(30〜50㎡) | 90〜120分 | 6,500〜11,000円 | 8,000〜12,500円 |
| 2LDK(50〜70㎡) | 120〜150分 | 8,000〜13,000円 | 10,000〜15,000円 |
| 3LDK・戸建て(70㎡〜) | 150〜240分 | 15,000〜30,000円 | 17,000〜33,000円 |
このレンジの上下は、単に広さの差ではありません。私が発注する側で見ている変動要因は、リネン込みか別か、ゴミの引き取りが有無、繁忙期対応が可能か、写真報告があるか、鍵の受け渡し方式(キーボックス・スマートロック・対面)の5点です。同じ1LDKでも、リネンをレンタルにするかオーナー自前かで実質2,000円くらい変わります。
もう一つ、23区内でもエリアで差があります。新宿・渋谷・港区は移動効率が良い一方で駐車場代がかさむ。大田区や台東区の一部は複数物件を回すルートを組みにくい。私の大田区物件は羽田寄りで、業者側からすると往路のガソリンと駐車が悩ましいらしく、単価に500〜1,000円上乗せで見積もりが来ます。
単価に必ず織り込むべき5つのコスト
単価4,500円で受けていた業者が半年で撤退した最大の理由は、直接人件費以外のコストを織り込んでいなかったからです。実際に発注する側から見ると、以下の5つは単価に必ず乗っている前提で払っています。乗せていない業者は、あとで別請求してくるか、品質が落ちてくる。
- 移動費:交通費だけでなく、移動時間そのものが人件費として発生する
- 消耗品・洗剤・ゴム手袋の減価償却:1件あたり100〜300円
- リネン仕入れまたはレンタル:1セット400〜900円(レンタルは業者原価)
- 写真報告・チェックリスト作成の管理コスト:1件15分=時給換算300〜400円
- 損害賠償保険料と、AirCover対応の事務コスト
特に見落とされがちなのが4番目。写真報告は今や発注側の必須要件で、これを丁寧にやる業者ほど選ばれます。ただし丁寧にやる分、時間もかかる。単価にこのコストを乗せていないと、報告の質が下がるか、そもそも報告が来なくなる。
もう一つ触れておきたいのが、労務費の価格転嫁です。2023年11月29日に内閣官房と公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しており、この指針は発注者が指針に沿わない行為をすることで公正な競争を阻害するおそれがあることを示しています。最低賃金が上がったのに単価が据え置き、というのは指針の趣旨から外れます。清掃業者側は、単価改定の交渉で堂々とこの指針を根拠にできる、と理解しておくべきです。
発注者から見た本音を書くと、根拠のある値上げ交渉は嫌がる相手ばかりではありません。「最低賃金が上がりました。うちの給与体系も見直したので、来月から500円上げさせてください」と言われたら、私は基本受けます。むしろ根拠なく「なんとなく安いから」と申し訳程度に見積もってくる業者のほうが不安です。
単価を上げても切られない業者の共通点
5年で7社を切り替えて、いまも継続している2社がいます。この2社は単価が周辺相場より2〜3割高い。それでも切らない理由を、発注側から言語化すると次の通りです。
まず、写真報告が異様に丁寧。台東区の1LDKでは、キッチンのシンク下・冷蔵庫の中・エアコンのフィルターまで毎回撮ってくる。これで私が現場に行かなくて済むし、レビューで清潔さ評価が落ちたときの原因追跡もできる。次に、当日キャンセルや繁忙期のダブルブッキングを一度もやっていない。GW前でも「23日から28日は満枠ですが29日以降は空いてます」と早めに教えてくれる。ここは単価3割増しに値します。
3つ目が、料金体系の明示性。「基本料金6,500円、リネン込みで+1,500円、繁忙期は基本料金の20%増、深夜早朝は25%増」というふうに、初回のヒアリング時点で全部出てくる。あとから追加請求されない安心感は、単価の1,000円分くらいの価値があると私は感じています。オーナーが初回ヒアリングで確認する項目を先回りで開示している業者は、それだけで発注確度が上がる。
単価を上げるための実務的な3ステップ
1つ目、根拠を数字で持つ。「最低賃金が1,226円になった」「うちのスタッフの平均時給を1,700円に引き上げた」「消耗品原価が去年から15%上がった」と、具体的な数字で説明できる状態にする。2つ目、オーナー側にとってのメリットを同時に提案する。「単価を500円上げる代わりに、写真報告の項目を10箇所に増やします」「繁忙期の枠を優先確保します」のような等価交換の形にする。
3つ目、値上げは事前予告を守る。2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、発注事業者に対する取引条件の明示義務や報酬支払期限の規制、ハラスメント対策義務が定められており、これまで下請法の対象外だったスキームにも一定のルールがかかります。この法律は発注側にかかる規制ですが、業者側から見ても契約条件を書面で明示する運用が標準になっていく、と理解しておいたほうが安全です。値上げ交渉で通る根拠と伝え方は別記事で細かく整理しました。
オプション単価の設計で稼働あたり利益を上げる
基本単価だけで利益を出すのは、正直、厳しいです。私が発注している業者は、オプション単価をきちんと分けていて、そこで実質の利幅を取っています。オプションは基本料金と別建てにするから、オーナー側も「これは追加でお願いします」と頼みやすい。
- リネンレンタル:シングル1セット900〜1,200円
- ゴミ持ち帰り処分:45L1袋あたり500〜1,000円
- 繁忙期(GW・年末年始・お盆):基本料金の1.2〜2倍
- 深夜22時〜早朝5時:基本料金の25%増以上(労基法の深夜割増準拠)
- 嘔吐・汚損の特別清掃:8,000〜20,000円の実費
- 備品補充(歯ブラシ・シャンプー等):仕入れ原価+管理費20%
特に深夜早朝と繁忙期は、労基法や実務慣行に根拠があるので、堂々と乗せていい部分です。深夜早朝の追加料金の実勢と繁忙期の割増目安は別記事で整理していますが、業者側が根拠を持って提示してくると、オーナー側はむしろ信頼します。曖昧に「繁忙期は少し高くなります」だと、後で必ず揉める。
オプション設計のコツは、基本単価は同業と揃えて、オプションで差別化することです。基本単価を大きく上振れさせると最初の見積もり比較で落ちるけど、リネンやゴミの実費を明示している業者は、私は選びます。基本6,500円+リネン1,500円=8,000円の業者と、リネン込み7,500円だけどゴミ別途500円の業者だと、後者のほうが結果的に高くなることもある。この計算をオーナー側もしているので、明示的に見せた方が信頼を得やすい。
単価の目線合わせで悩んでいるオーナーの方は、条件を入れて複数社を並べて見る方法もあります。相場感を掴むだけでも使えます。
定額制と都度払い、単価の作り方はどう変わるか
単価を都度払いだけで設計するのか、月額の定額制も用意するのか。これは業者側の売上安定性に直結するし、オーナー側の意思決定コストも変わる。私は都度払いと定額の両方を経験しました。
定額制のメリットは、業者側にとってはキャッシュフローの読みやすさ。オーナー側にとっては、単価の想定超過リスクをヘッジできること。ただし、稼働が読めない物件だと、定額を高めに設定される。私の大田区物件は稼働率が読めないので都度払い、新宿のワンルームは稼働率75%で安定してるので定額、という使い分けです。定額と都度払いの損益分岐は稼働の読み方で変わります。
業者側から単価を設計するとき、定額制は「都度払い単価×想定稼働の85%」で提示するのが、私が見てきた中では上手な設計でした。想定稼働の100%で切ると、閑散期に業者が損する。85%で切ると、業者も安定して回せるしオーナーも納得できる。ここは統計というより、実際に3社の定額プランを比べて出した経験則です。
単価だけで勝負しない業者が生き残る理由
正直に書くと、単価だけで選ばれる業者は長くは続きません。私が5年で7社を切り替えたと書きましたが、切った理由の8割は「単価は安いけど連絡が遅い」「単価が安いのに繁忙期に枠が取れない」「単価は安いけど写真報告がない」でした。単価が安いだけの業者は、オーナーの目線が上がった瞬間に切られる。
逆に、いま継続している2社は単価が2〜3割高い。それでも切らないのは、拘束時間が短いから。連絡が早い、写真報告が丁寧、繁忙期でも枠を取れる。この3つが揃うと、オーナー側は単価差1,500円くらいまでは平気で払います。単価を上げるための努力は、値上げ交渉そのものより、この3つの品質を先に作ることのほうが遠回りに見えて近道です。
もう一つ、業者側に伝えたいのは、単価を上げる交渉より、オーナーを取り替えるほうが早い場合があります。安値でしか受けない物件を切って、単価をきちんと払える物件だけを取りに行く。私も発注側で、単価を下げてくれと言い続けたら業者に切られたことがあります。そのときは正直、悔しかったですが、業者側の判断としては正しかったと今は思ってます。
単価をいくらで請けるか、最後に決めるのは業者自身
ここまで発注側から見た景色を書いてきましたが、最後の判断は業者自身が下すしかありません。周辺相場が5,000円だから5,000円で受けるのか、うちは6,500円でしか受けないと決めるのか。この選択で、半年後に付き合っているオーナー層が変わってきます。
個人的には、単価を下げて件数を稼ぐより、単価を上げて件数を絞るほうが、続く業者は多いと感じています。ただしこれは私の観察の範囲で、繁忙期に一気に稼ぎ切りたい業者、副業で少数だけ回したい業者、法人化してスタッフを回している業者では最適解が違うはず。ここは業者側で考える余白として残しておきます。
一つだけ言えるのは、最低賃金1,226円と、労務費転嫁指針、フリーランス新法。この3つは、単価設計を組み立てるときの守るべき下限であり、値上げ交渉の根拠でもあります。ここを外して感覚で単価を決めると、遅かれ早かれ持続不能になる。逆にここを踏まえて数字を組み立てると、オーナー側にも説明しやすくなる。
清掃業者として登録して、条件の合うオーナーの案件を受けたい方は、下から業者側の登録ができます。
よくある質問
Q1. 民泊清掃を始めたばかりで単価の相場が分かりません。何を基準にすればいい?
まず自分の作業時間を実測してください。ワンルームで初回90〜120分かかったとして、時給を東京都最低賃金1,226円で置くだけでも最低ラインが出せます。ここに移動費・消耗品・リネン・利益を乗せると、ワンルーム1件で最低4,500〜5,500円が下限。周辺相場は編集部調べで3,500〜7,000円です(時期・広さで変動)。安易に周辺相場の中央値で決めると、あとで持続不能になります。
Q2. オーナーから値下げ交渉が来たとき、どう対応すればいい?
単純に「下げます」「下げません」の二択にしないほうがいい。「単価は据え置きでリネンをオーナー自前に変える」「写真報告を10箇所から5箇所に減らす」など、削れるサービスと単価をセットで見せる。オーナー側もその条件比較のほうがフェアだと感じます。労務費転嫁指針の趣旨からも、労務費部分は原則として値下げの対象外、と伝えて構いません。
Q3. 繁忙期の割増は何%乗せるのが適切?
編集部調べで東京の民泊清掃業者の繁忙期割増は、基本料金の1.2〜2倍が実勢レンジです。年末年始・GW・お盆・桜シーズンの4大繁忙期で線を引くのが一般的。ただしオーナー側からすると、直前になって突然「繁忙期料金です」と言われるのが一番困るので、契約時に割増期間と率を書面で明示しておくのが必須です。フリーランス新法の取引条件明示義務にも沿う運用になります。
Q4. 単価を上げるタイミングはいつがいい?
最低賃金改定のタイミング(東京は毎年10月頃)が最も自然です。「10月の最低賃金改定で時給を見直したので、11月から単価を〇%上げさせてください」という言い方だと、オーナー側も反論しにくい。また、消耗品仕入れ価格が5%以上上昇したときも根拠になります。1年に1回、決まった時期に見直す運用のほうが、オーナー側の会計処理もしやすく、結果的にトラブルになりません。
Q5. 単価を下げてでも件数を増やすのと、単価を上げて件数を絞るのはどっちが正解?
これは業者の事業形態次第で、正解は割れます。副業で月10件以内の個人なら単価重視、法人でスタッフを抱えているなら稼働率重視の設計になりやすい。ただ、私が発注側で見てきた範囲では、単価を上げて件数を絞る業者のほうが長く続いています。安値で件数を稼ぐモデルは、繁忙期の疲弊とオーナーからの追加要求で崩れやすい、というのが観察です。
Q6. 東京都以外のエリアでも、同じ単価設計でいい?
最低賃金が違うので、時給ベースは各都道府県の最低賃金に合わせて調整が必要です。ただし民泊清掃の実勢単価は、東京・大阪・京都・福岡など主要都市で大きな差はない、というのが業界の傾向です。むしろ物件が集中しているエリアと分散しているエリアで、移動効率の差が単価に効きます。移動時間が長いエリアほど、単価は高めに設定すべきです。

