先月、浅草の1LDKの清掃を頼んでいる業者から「来月から一律500円上げます」というLINEが来ました。金曜の23時過ぎ、会社帰りの電車の中で読んで、正直、少し固まった。1回7,500円から8,000円へ。月10泊分回してもらってるので、単純計算で年6万円の差になります。
この時に初めて「料金交渉って、そもそもやっていいのか」を真面目に調べました。オーナー側から値下げをお願いする、値上げを一部戻してもらう、そういう相談は失礼にならないのか。逆に、法律的にNGな伝え方はあるのか。
結論から言うと、交渉自体はできます。ただし、感情でぶつけるとほぼ確実に関係が壊れる。相場という共通の物差しを間に置いて、条件のどこを動かせば単価が下がるかを一緒に考える、という進め方じゃないと成立しない。この記事は、私が新宿・浅草・大田区の3物件で実際にやってきた話をベースに、値下げ相談の進め方をまとめます。
この記事の要点
- 民泊清掃の料金交渉は違法ではないが、2024年11月施行のフリーランス新法により「著しく低い報酬を不当に定めること(買いたたき)」は禁止されているため、根拠のない一律値下げ要求は避ける必要がある
- 東京都心のワンルーム民泊清掃の1回あたり相場は編集部調べで3,500〜7,000円程度(広さ・頻度・繁忙期・リネン有無で変動)で、この幅を根拠に「自分の条件だとこのレンジのどこか」を確認するのが交渉の出発点
- 単価そのものを下げるより、リネン形態・ゴミ処理・繁忙期割増・支払サイト・稼働本数の5項目のどれを動かせるかを提示する方が合意に至りやすい
- 相見積もりは有効だが「他社は◯円だった」と直接ぶつけるより、条件差を並べて相談する形にすると関係が壊れにくい
- 値下げ交渉は関係が良好な時期に、次期契約更新の1〜2か月前が動きやすい
一社ずつ電話して見積もりを取り直すのが面倒なら、条件を入れるだけで複数の民泊清掃業者から比較できる仕組みを試してみるのが早いです。相場感を掴む用途にも使えます。
民泊清掃の料金交渉は可能か?結論と法的な線引き
結論、料金交渉はできます。ただし「一方的な値下げ通知」は法的リスクがあります。ここを最初に押さえないと、良かれと思って送った1通のLINEで違反になりかねない。
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(通称フリーランス新法)は、業務委託事業者が個人事業主等に業務を委託する場合、一定の禁止行為を定めています。公正取引委員会の特設サイトでは、買いたたきについて「類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること」とされ、一方的に一定率で単価を引き下げて報酬を決めることも該当し得るとされています。清掃業者が個人事業主だった場合、これに触れる可能性があります。
資本金1,000万円超の法人が発注元になる場合は、下請法の対象になるケースもある。ただ、大半の民泊オーナーはそこまでの規模ではないので、実務上はフリーランス新法の方を意識することになります。
「交渉」と「押し付け」の違い
禁止されているのは「一方的に、著しく低い金額を、正当な根拠なく決めること」です。合意形成のプロセスがあれば、値下げ相談そのものは何ら問題にならない。
NGな例と、OKな例を並べます。NGは「来月から一律10%下げます、返信不要」というLINE1通での通告。これは合意形成がない上に、10%という数字の根拠もない。OKは「今の単価が相場のどのあたりか一緒に見直したいので、内訳の内訳表をもらえますか」から始める形。順序が違うだけで、法的な意味も、関係性への影響もまるで変わります。
私が浅草の値上げ通知を受け取った時、最初にやったのは「500円上げる根拠を教えてください」の返信だけ。値下げも値上げも、根拠を並べる作業から始めるのが安全です。
交渉の前に把握しておく相場感(東京・広さ別)
交渉は相場を知らないと始まらない。「高い気がする」だけでは相手も動けないし、逆にこちらが相場より安く発注していた場合は無理な値下げ要求になってしまう。
編集部調べの東京都心の実勢レンジは以下の通りです。時期は2025年時点、条件によって当然ぶれます。あくまで交渉の物差しとしての参考値。
| 広さ | 1回あたりレンジ(東京都心) | 備考 |
|---|---|---|
| ワンルーム(〜25㎡) | 3,500〜7,000円 | リネン込みだと上限寄り |
| 1LDK(30〜50㎡) | 5,500〜10,000円 | 浴室・キッチンの手間で変動 |
| 2LDK(50〜70㎡) | 8,000〜14,000円 | 寝室2部屋分のリネンで加算 |
| 戸建て(70㎡〜) | 12,000〜20,000円 | 階段・庭・駐車場で更に加算 |
私の3物件で言うと、新宿区のワンルーム(25㎡)が1回5,500円(リネン込み)、浅草の1LDK(45㎡)が7,500→8,000円(リネン別、後述の値上げ後)、大田区のワンルーム(28㎡)が4,800円(リネン別、ゴミ回収オプション)。それぞれ、レンジのどこにいるかを確認して、自分の条件と照らして「これは高い/妥当/安い」を判定しています。
広さ別の実勢価格については、東京の広さ別実勢価格をまとめた記事にもう少し細かい内訳を書いています。相場を厚めに把握してから交渉に入るなら、そちらも見ておくと足元が固まる。
相場より高い時/安い時の使い分け
自分の単価がレンジより明らかに高い場合、値下げ交渉の余地はある。逆にレンジ下限にいる場合、値下げを持ちかけるのはフリーランス新法的にも人情的にも避けたほうがいい。むしろ「品質を落とさないための値上げ」を受け入れる方が長期では得になることもあります。
相場の上限を超えている場合でも、その業者が繁忙期の枠を確実に取ってくれる、写真報告が丁寧、緊急対応してくれる、といった付加価値があれば適正な場合もある。単価だけを切り出して判断しない。
値下げ相談を切り出すタイミング
タイミングを間違えると、内容がどれだけ真っ当でも刺さらない。私が試して分かったのは、交渉が通りやすいのは以下の3タイミング。
- 契約更新の1〜2か月前(自動更新の停止通知期限の少し前)
- 閑散期の入り口(1〜2月、6月、9月)で相手も新規案件を欲しがっている時
- 物件を増やす/頻度を増やすなど、こちら側の発注量が増える時
逆に、繁忙期の直前(GW前、お盆前、年末年始前)は最悪です。相手は枠が埋まっていて、値下げを飲むくらいなら契約を切って別の高単価案件を取る方が合理的な時期。ここで交渉を持ち掛けると、こちらが交渉のテーブルから降ろされます。
大田区の物件で1回だけ、GW直前に値下げをお願いしたことがあります。返信が3日返ってこず、返ってきたら「今期は難しい」の一言。関係がギクシャクした状態でGWを迎える羽目になって、あの1週間はずっと胃が痛かった。以降、繁忙期前の交渉は絶対にやらないと決めました。
値上げ通知を受けた時の対応
逆に、業者から値上げを通告された場合は「相場と比べてどうか」を根拠にすぐ返信するのが良い。時間を空けると、通告が既成事実化して「もう決まったこと」の空気になります。
浅草の500円値上げ通告に対しては「金額の根拠と、値上げ後も相場のレンジ内に収まっているかを確認したいので、単価内訳をください」とだけ返信しました。1週間後、内訳と共に「300円までにさせてほしい」の逆提案が来て、そこで着地。感情ではなく、相場を物差しにした話に持ち込めたから折り合えた気がしてます。
値下げの余地がある5項目|単価そのものを触らない交渉術
ここが一番実践的な話。単価そのものを下げてもらうのはハードルが高いけど、条件のどこかを動かせば実質的な支払額は下げられる。私が3物件で試して効いた項目を、効果が大きい順に並べます。
1. リネンの形態を変える
清掃業者に「リネン込みパック」で頼むと、リネン単体で外部業者に頼むより1回あたり300〜800円ほど高いことが多い。清掃業者が中間マージンを乗せているためです。
これを「リネンだけ別のリネン業者と直契約にして、清掃業者は清掃だけ」に切り替えると、実質単価が下がる。新宿の物件でこれをやったら1回あたり500円下がりました。ただし物流の手間は増える。
2. ゴミ処理の切り分け
ゴミの持ち出しを清掃業者に頼むと、1回500〜1,500円のオプションが乗っていることが多い。自治体の収集日に自分で出せるなら、この項目を外して単価を下げてもらえる。
ただし民泊のゴミは事業系一般廃棄物扱いになるケースがあるので、自治体ルールの確認が必要。この辺は自治体の廃棄物窓口に一次確認してから動く。
3. 繁忙期割増の適用範囲
「繁忙期は1.5倍」という契約でも、実際には「GW・お盆・年末年始のみ」なのか「7〜8月と12月まるごと」なのかで年間支払額が全然違う。ここは交渉というより、契約の明確化。適用日を絞ってもらう形なら、業者も飲みやすい。
繁忙期の相場感については、年末年始・GW・お盆の追加費用の目安に業界の一般的な割増レンジをまとめています。1.2〜2倍の幅がある中で、自分の物件が交渉の余地があるかを判定する目安になります。
4. 支払サイトの短縮
これは意外と効きます。「月末締め翌々月末払い」を「月末締め翌月15日払い」に短縮する提案。業者のキャッシュフローが良くなるので、1回あたり100〜300円の値引きに応じてもらえたことがあります。
大田区の業者にこれを提案した時「そこまで気を遣ってくれるお客さん初めて」と言われて、以降ずっと融通が効くようになりました。金額以上に、関係性の投資として効く。
5. 稼働本数のコミット
「月10本以上を確約するので、9本目以降は500円引き」といった数量割の提案。物件を複数持っている、または稼働が安定しているオーナー向け。
ここまで5項目を並べてみて、共通しているのは「相手にも何かメリットがある」形になっていること。片務的な値下げ要求ではないから、相手も断りづらいし、断られても関係が壊れない。
そもそも他社の見積もりを取って比較したい段階なら、一社ずつ問い合わせるより、条件を入れるだけで複数業者を比較できるサービスの方が早いです。相場観の材料にもなります。
相見積もりを交渉材料にする作法
相見積もりは交渉の最強カードだが、使い方を間違えると一発で信頼を失う。「他社は5,000円って言ってましたけど?」を対面で言う瞬間、関係は終わる。私も1回やって痛い目を見ました。
正しい使い方は、相場のレンジを提示する形。「複数社に問い合わせたところ、この広さ・頻度の条件だとレンジが◯〜◯円でした。今の弊社との単価は◯円で、レンジの中では上寄りに見えます。理由や、条件を変えれば下げられる余地があれば教えてください」。事実の共有と、判断は相手に委ねる形。
見積もり比較の条件を揃える
相見積もりを取る時、条件が揃っていないと「◯円」の比較自体が無意味。リネンの有無、ゴミ処理の有無、繁忙期割増の適用範囲、写真報告の有無、これを揃えて出してもらう。
見積もりの内訳が業者ごとにどう違うかについては、業者ごとに数千円違う理由と比較のコツにもう少し細かく書きました。条件を揃えるチェック項目を最初に固めておくと、比較の精度が上がります。
「見積もりが高い」と感じた時のチェック
今の見積書が本当に高いのか、内訳のどこが平均より膨らんでいるのかを先に切り分けるのが順番として正しい。基本料金・リネン・ゴミ・消耗品・繁忙期割増の5費目のどこが相場からズレているかを見て、そこだけを狙って交渉する方が話は通りやすい。
相場と比べて確認すべき5つの費目の記事で、費目別のチェック手順を細かく書いています。全体の総額ではなく、費目単位で見ると交渉の刃筋が立ちやすい。
切り出し方のテンプレ|LINE・メール例文
ここは実務。私が浅草の業者に実際に送った文面を、個人情報を削って共有します。値下げ交渉ではなく、単価内訳の確認から入るのがポイント。
◯◯様
いつもお世話になっております。浅草の◯◯物件の件でご相談です。次回契約更新のタイミングで、単価の見直しを一緒にできればと思っています。他社の見積もりや相場を確認したところ、私の物件条件(1LDK・45㎡・月10本・リネン別)だと、東京都心の一般的なレンジは編集部調べで5,500〜10,000円との情報でした。現在の単価8,000円はレンジ内に収まっているものの、リネン別としては上寄りに感じています。単価の内訳や、条件を変えれば下げられる余地があるかを一度お聞かせいただけないでしょうか。相場から見て妥当なら、そのままお願いしたいと思っています。
ポイントは3つ。相場のレンジを事実として提示、単価が高いと感じている理由を明示、相手に判断の余地を残す。「安くしろ」ではなく「一緒に見直したい」の姿勢。この文面で、8,000円が7,500円に戻りました。
やってはいけない切り出し方
逆に、これは絶対にやらない、という例。
- 「他社は5,000円でした」と数字だけぶつける(条件差の説明なし)
- 「来月から一律◯%下げてください」と一方的に通告する(合意形成なし・フリーランス新法上のリスクあり)
- 「値下げしないなら切ります」と最初に脅す(関係が壊れて代替業者もすぐには見つからない)
- 「うちは大変なんです」と自分の事情だけを訴える(相手のメリットゼロ)
4つ全部、過去にどれかを試して失敗しています。特に3番目「切ります」の一言は、こちら側が代替業者の目処を100%つけてから最後に出すべきカード。何もない状態で切ると、次の業者が見つかるまでの1〜2か月、自分が現場に入る羽目になる。会社を休めない兼業オーナーには詰みです。
交渉が決裂した時の次の一手
丁寧に交渉しても、値下げに応じてもらえないことはあります。その時に選択肢は3つ。現状維持で続ける、条件を変えて再交渉する、業者を切り替える。
切り替えは最後の手段。理由は、切り替えコストが想像以上に大きいから。マニュアルの再作成、鍵の受け渡しやり直し、初回の品質ブレ、繁忙期の枠取り直し。私の体感で、切り替えの実質コストは半年分の値下げ差額を軽く超える。
引き継ぎの実務については、業者切り替えでも品質を落とさないマニュアル整備にステップを整理しています。切り替えを判断する前に、この手間を許容できるかをまず確認する。
「値下げより値上げ受け入れ」が正解のケース
逆説的だが、値下げを諦めて値上げを受け入れる方が長期的に得なケースもある。繁忙期の枠を確実に取ってくれる、写真報告が丁寧、深夜の緊急対応可、こういう業者は年10万円追加払っても代替が見つからない。
大田区の物件で、月8,000円の値上げを飲んだ業者があります。飲んだ理由は、その業者が「金曜23時のチェックアウト翌朝土曜9時イン」という難しい枠でも枠取りできる唯一の会社だったから。値上げ額より、機会損失を防いだ金額の方が大きい。
長期的に単価を安定させる関係作り
単発の交渉より、そもそも「無理な値下げをお願いしなくて済む関係」を作る方が結果的に楽です。ここは3物件を4年ほど回してきた実感。
私がやってきたのは、支払を早める、繁忙期を早めに予約する(3か月前に押さえる)、SNSやレビューで業者を紹介する、業者側の困りごとに耳を貸す(例えばゴミ出しの手順を先方に合わせる)、といった小さな積み重ね。金額の話じゃない部分で貢献しておくと、相場が上がる局面でもうちは据え置きにしてもらえたりする。
逆に、当日キャンセルが多い、指示が曖昧、支払が遅い、こういうオーナーは業者から見て「単価上げても採算取れない相手」扱いになる。値下げ交渉以前に、こちら側の発注品質が単価に反映されている前提を忘れない。
読者への問い
ここから先は判断が分かれる論点。自分だったら、単価500円下げて業者との関係を消耗するのと、単価据え置きで繁忙期の枠を優先確保してもらうの、どっちを取りますか。私は物件によって答えが違う。新宿は前者、浅草と大田区は後者を選んでます。稼働率と、代替業者の見つかりやすさで判断が変わる。
正解は物件ごと・タイミングごとに違うので、この記事を読んで「うちはどっちだろう」と考えてもらう時間になれば、書いた甲斐があります。
相場の材料集めと、他社の見積もり比較を並行して進めたいなら、複数の業者に一括で条件を投げて比較できる仕組みを使うのが手っ取り早い。交渉のカードを増やす意味でも、今のパートナーを客観視する意味でも役立ちます。
よくある質問
Q1. 民泊清掃の料金交渉はどれくらいの頻度でやっていい?
年1回、契約更新のタイミングでの見直し相談が自然です。それより頻繁だと業者側の心理的負担が大きく、関係悪化のリスクが上回る。私は3物件とも1年に1回、閑散期に「今の条件でお互い妥当か」の話をするようにしています。
Q2. 値下げに応じてもらえない場合、どのくらいで切り替えを判断する?
単価差が年間5万円以下なら、切り替えコスト(マニュアル再作成・鍵の受け渡し・初回品質のブレ・繁忙期枠の取り直し)の方が大きい可能性が高いので、現状維持を推奨。10万円を超える差なら切り替え検討の余地がある、というのが3物件を運営してきた個人的な感覚です。
Q3. フリーランス新法で禁止されている「買いたたき」の判断基準は?
公正取引委員会の説明では、類似品等の価格または市価と比べて著しく低い報酬を不当に定めることが該当し、一方的に一定率で単価を引き下げて報酬を決めることも例示されています。判断は個別事情によるので、具体的な線引きが必要な場合は公正取引委員会のフリーランス法特設サイトを直接確認するか、専門家に相談してください。
Q4. 相見積もりを取ったことを、今の業者に伝えるべき?
「他社は◯円だった」と数字で伝えるより、「相場感を掴むために複数社に問い合わせした」という事実だけを共有する方が関係が壊れにくい。競合の具体的な社名や金額を出すのは避けた方が無難です。相場のレンジとして情報を提示する形が、私が試した中では一番角が立ちませんでした。
Q5. 値下げを飲んでもらった後、品質が落ちる心配は?
正直、あります。値下げ後1〜3か月は写真報告を細かくチェックして、指摘があれば早めに共有するのを推奨。うちの新宿の物件で値下げ後、シャワーヘッドの水垢が3回続けて見落とされたことがあって、その時は「値下げ額を戻すので品質を維持してほしい」と申し入れました。値下げは一度成立させたら固定ではなく、品質とセットで見直せる柔軟さを持っておくのが安全です。
Q6. 契約書がない口頭契約でも交渉できる?
交渉自体はできますが、そもそも契約書がない状態はリスクが高い。フリーランス新法では発注事業者に対して業務内容・報酬額等を書面またはメール等で明示する義務が課されています(一定の条件下)。値下げ交渉のタイミングで、契約書または取引条件の明示書面を整えるのを合わせて提案するのがおすすめです。

