金曜の夜、会社帰りの電車の中で、清掃業者の若い担当者から「明日入る大田区の部屋、宿泊者の名前と連絡先ってLINEで送ってもらえます?」と連絡が来た。前任のスタッフが辞めた翌週で、こちらも慌てていて、その場で送りかけて指が止まった。よく考えたら、この人に名簿を渡す法的な根拠を私は説明できない。
民泊の宿泊者名簿は住宅宿泊事業法で作成・保存が義務付けられていて、氏名や住所、外国人なら旅券番号まで書かせる、要は本気の個人情報の塊。それを清掃業者に共有していいのか、どこまでならセーフなのか、都内3物件を回している兼業オーナーとして、法律の一次情報と自分の運用を突き合わせて整理します。
結論から書くと、清掃業者に名簿そのものを渡す必要はほぼないです。ただし「渡してはいけない」わけでもなくて、業務委託の範囲内なら第三者提供にはあたらないという整理もある。この曖昧さが厄介で、私は最初のオーナーの頃、判断を1年ぐらい保留にしてました。
この記事の要点
- 住宅宿泊事業法第8条で宿泊者名簿の記載事項(氏名・住所・職業、外国人は国籍と旅券番号)と作成日から3年間の保存が義務付けられている(観光庁・厚労省一次情報)
- 清掃業者への共有は個人情報保護法27条5項の「業務委託」に該当すれば第三者提供にあたらないが、委託業務に必要な範囲を超えると違法になり得る
- 清掃業務それ自体には宿泊者の氏名・住所・旅券番号は原則不要。共有するなら「チェックアウト予定時刻」「人数」「緊急連絡先」など運用上必要な最小限に絞るのが安全
- 共有する場合は業務委託契約書に「取扱範囲・目的外利用禁止・返却/破棄・再委託の可否・漏えい時の通知」を明記する必要がある(個人情報保護法25条・委託先の監督義務)
- 安易にLINEやチャットで名簿を送るのは、安全管理措置の観点で高リスク。共有ツールとフローを設計してから発注するのが順序
清掃業者との情報共有ルールを一から作り直すのが面倒なら、契約条項や連絡フローがある程度整った業者を最初から選ぶのが早い。見つける君のようなマッチングの仕組みを使うと、複数社の条件を並べて比べられます。
宿泊者名簿は住宅宿泊事業法で何が義務付けられているか
まず前提として、民泊の宿泊者名簿は「あってもなくてもいいメモ」ではなくて、法律で作成と保存が義務付けられた法定帳簿です。住宅宿泊事業法8条に「宿泊者名簿を備え、氏名、住所、職業その他の国土交通省令・厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があったときは、これを提出しなければならない」と書かれている。
大阪市の一次情報だと、記載事項は氏名・住所・職業・宿泊日と、宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときは国籍と旅券番号、と整理されていて、外国人の場合は旅券の呈示を求めて写しを保存することが求められる。保存期間は作成日から3年間。
つまり名簿には旅券写しまで入り得るわけで、これは個人情報の中でもかなり機微。うちの浅草の1LDKは外国人ゲストが7割ぐらいで、パスポート画像がクラウドにガッツリ溜まっていく。これを不用意に共有していい相手はほぼいない、というのが出発点です。
観光庁通知は「テロ等の未然防止」を明示している
厚労省が出している平成29年の通知には、住宅宿泊事業法に基づく届出住宅において、テロ等の不法行為の未然防止のため名簿の正確な記載を徹底するように書かれている。この背景を踏まえると、名簿は「行政・警察が必要なとき提出する前提の帳簿」であって、清掃業者と業務効率化のために気軽に流していいものではない、という位置づけが見えてきます。
この点を最初に理解しておかないと、清掃業者から「送っといて」と言われるたびに毎回判断がブレる。私は宅建の勉強でちょっと法律に触れていたので気になったんですが、法律を知らない状態で始めていたら普通に送っていたと思います。
清掃業者に渡すと個人情報保護法の「第三者提供」になるのか
結論、清掃業者との共有が「業務委託に伴う提供」の範囲内であれば、個人情報保護法27条5項1号により第三者提供には該当しません。ここは実務家の多くが確認しているポイント。
27条5項は、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いの全部または一部を委託することに伴って個人データが提供される場合、提供先を「第三者」に該当しないと定めていて、本人同意なしに情報を渡せる整理になっている。清掃業務が「宿泊者に部屋を提供するという利用目的」に必要な範囲かどうか、というのが判断の軸です。
ただしこれは「渡してOK」というより「同意なしでも渡せる法律構造がある」というだけの話で、渡していい情報の量とは別問題。ここを混ぜて考えると事故ります。
「必要な範囲」を超えたら普通に違法になる
27条5項が保護してくれるのは、あくまで委託業務の遂行に必要な範囲。清掃業務の遂行に旅券番号は必要か?と問われて「必要です」と答えられる人はまずいない。必要でない個人データまで渡していると、それは委託を超えた第三者提供になって、本人同意なしでは違法という結論になり得ます。
私は最初、清掃業者に「明日〇時にチェックアウト、次の予約は明後日、ゲスト名は◯◯」までLINEで書いて送っていた時期がある。今考えると氏名は不要でした。清掃側が知りたいのは「いつ入れるか」「何人使ったか」「連泊か」であって、誰が使ったかではない。
清掃業者と共有すべき情報、共有しなくていい情報
実務で仕分けると、清掃業者と共有する必要があるのは主に運用情報で、個人特定情報はほぼ不要です。以下、うちの3物件で運用してる分け方を表にしました。
| 情報の種類 | 共有の要否 | 理由 |
|---|---|---|
| チェックアウト日時 | 共有必須 | 入室可能時刻の起点になる |
| 次のチェックイン日時 | 共有必須 | 清掃終了デッドラインになる |
| 宿泊人数 | 共有推奨 | リネン枚数とゴミ量の見積もりに直結 |
| 連泊/入替の別 | 共有推奨 | 清掃項目(フル清掃/簡易清掃)の切り分けに使う |
| 宿泊者の氏名 | 原則不要 | 清掃業務の遂行に必要性が乏しい |
| 住所・職業 | 不要 | 清掃業務と一切関係がない |
| 旅券番号・パスポート写し | 絶対に不要 | 共有すると委託の範囲を明確に超える |
| ゲスト連絡先(電話/メール) | ケースによる | 忘れ物対応を業者に一任する契約なら共有、そうでなければ不要 |
この表の下2行、旅券番号やパスポート写しを清掃業者に渡している事業者を、実は自主管理オーナーのコミュニティで何度か見かけました。「業者もゲスト確認したいって言うから」と本人は善意でやってるんですが、これは委託の範囲外に個人データを提供している状態で、漏えい時のリスクを完全にオーナー側が背負う形になる。
忘れ物対応で連絡先を渡すかどうかは事前設計
うちで一番判断が割れたのが、ゲストの連絡先。忘れ物が出たときに清掃業者から直接ゲストに連絡してもらうと動きが早くなるんですが、そのために毎回LINEに電話番号を書き込むのは危ない。契約書で「忘れ物発生時に限り、オーナーが指定する連絡手段でゲストと連絡することを認める」と明示して、電話番号は都度共有ではなく必要時のみ渡す、という運用に落ち着きました。
以前まとめた鍵の受け渡しと入室ルールの記事でも書いたんですが、契約で決めておかないと現場が善意で暴走する。悪意ではなく善意で情報が漏れるパターンが、実は一番多い気がしてます。
委託元オーナーには「委託先の監督義務」がある
清掃業者に個人データを渡すとき、たとえ第三者提供に該当しなくても、オーナー側には個人情報保護法25条の「委託先の監督義務」が残ります。要するに「渡した相手がちゃんと管理してるか、あなたが責任持って見ておいてね」という話。
個人情報保護委員会のガイドライン通則編では、この監督義務の具体は「適切な委託先の選定」「委託契約の締結」「委託先における取扱状況の把握」の3点で整理されている。契約書に情報の取扱条項を入れて、実際に守られているか確認する、というのを継続的にやる必要があるということです。
個人事業主の清掃業者に発注してるオーナーだと、この監督義務のハードルは正直きつい。相手が個人情報保護方針を持ってなかったり、そもそも「安全管理措置って何ですか?」というレベルもあり得る。だから発注前に、業者側の情報取扱い体制を軽くヒアリングしておくのが安全です。
契約書に入れておくべき5項目
うちで使っている業務委託契約書に、情報取扱いの条項として最低限入れているのは以下の5項目。個人情報保護委員会のガイドラインで求められる委託契約の内容を意識してます。
- 取扱範囲の限定:清掃業務の遂行に必要な情報のみ取り扱う旨
- 目的外利用の禁止:清掃業務以外の目的で個人データを利用しない旨
- 再委託の可否と条件:再委託する場合はオーナーの事前書面同意を要する
- 返却または破棄の方法:業務終了時にデータを返却/破棄し完了報告する
- 漏えい時の通知:漏えい・滅失・毀損が発生した場合、遅滞なくオーナーに通知する
特に3つ目の再委託は要注意。清掃会社が繁忙期に外部スタッフをスポット雇用する形態は珍しくなくて、契約書で縛っておかないと、いつの間にか会ったこともないスタッフのスマホに部屋情報が入っているという状態になる。契約条項の詳細は契約書で必ず確認する条項の記事にも整理してます。
契約書に個人情報関連の条項をゼロから盛り込むのは正直きつくて、業者側にひな形がある方が話が早い。複数の清掃業者から一度に条件を集めて比較したい人は、こういう仕組みを使うのが実務的です。
LINEで名簿を送るのはなぜまずいのか
個人情報保護法は「安全管理措置」を事業者に求めていて、これは技術的措置と組織的措置の両面。名簿をLINEやチャットで送るという運用は、この安全管理措置の観点で穴だらけです。
LINEのメッセージは端末を紛失したり、退職した従業員のアカウントに残っていたり、家族が使う共用スマホに通知が出たり、と管理不能な経路が多すぎる。事業者としてゲストのデータをどう保護しているかを問われたら、まず答えられません。
私が実際にやっているのは、清掃業者用のアクセス権限を限定した共有スプレッドシートに、その日必要な運用情報だけ書き込む方式。氏名は載せず、「ゲストA」のような識別子だけ使う。ゲストと直接やりとりが必要になったときは、私からゲストに連絡して、清掃業者経由で連絡させることは基本しない。
ツールと運用を分けて考える
ツール選びよりも、そもそも「何を伝えるか」を先に決めるのが大事です。伝える情報を最小化すれば、ツールに依存する部分は小さくなる。私の場合はGoogleスプレッドシート+各業者ごとにアクセス権を分ける方式で、業者を切り替えたら即時に権限を切れるようにしてます。
もっと簡素にPDFやCSVを個別送信している人もいますが、送った後に誰が見れる状態にあるかを追えないので、私は使わなくなりました。共有ドライブに置いて期限付きURLで見せる、みたいな中間案もあり得ます。
行政から名簿の提出を求められたときの整理
住宅宿泊事業法8条には「都道府県知事の要求があったときは、これを提出しなければならない」と明記されていて、これはオーナー(住宅宿泊事業者)または委託を受けた住宅宿泊管理業者の義務です。清掃業者は名簿の管理主体ではないので、清掃業者に名簿を渡してあっても行政提出の責任がオーナーから外れるわけではない。
つまり名簿を清掃業者に渡す「行政対応上のメリット」はほぼないんです。それでも渡そうとする動機があるなら、それは業務効率のためではなく他の目的(清掃業者側の記録用など)で、その目的に本人同意なしに個人データを渡すのは委託の範囲を超える可能性が高い。この構造を理解すると、答えは自然に「渡す必要ない」になります。
家主不在型で住宅宿泊管理業者に委託している場合は、管理業者が名簿の作成・保存を担うことになる。この管理業者は「住宅宿泊管理業者」として国土交通大臣の登録が必要で、単なる清掃業者とは法的位置づけが違います。清掃業者と管理業者の区別を曖昧にしないのが大事で、詳しくは清掃の法的位置付けを整理した記事を参照してください。
保存期間中の管理はオーナーの責任
名簿は作成日から3年間の保存義務がある。この3年間、データが漏れないように管理するのは名簿の管理主体(オーナーまたは住宅宿泊管理業者)の責任で、清掃業者に渡してしまったコピーの管理までオーナーが実質的に見なければならなくなる。増えれば増えるほど管理コストが上がるので、そもそも渡さないのが一番安いという結論になります。
清掃業者への情報共有 実務チェックリスト
ここまでの内容を、発注前・発注後に確認できる形でチェックリスト化しました。私は新しい業者と契約するとき、これを紙で持って初回打ち合わせに行きます。
- 共有する情報は「日時・人数・連泊フラグ」の運用データに限定できているか
- 氏名・住所・旅券情報を渡さない運用フローになっているか
- 業務委託契約書に取扱範囲・目的外利用禁止・再委託・破棄・漏えい通知の5条項があるか
- 共有ツールはアクセス権限を業者単位で切れるものになっているか
- 業者を切り替えたら即座に権限剥奪できる状態か
- 忘れ物発生時のゲスト連絡ルートが事前に決まっているか
- 3年間の名簿保存の主体と保管場所を書面で明確にしているか
全部埋めるのは正直しんどいので、契約前に最低3項目、契約後1ヶ月以内に残りを埋める、ぐらいのペース感で運用してます。完璧を目指しすぎると初回発注が3ヶ月止まる。
見積もり段階で情報取扱いを確認するのが安い
見積もり依頼のときに「宿泊者情報はどこまで必要ですか?」と聞くと、業者の姿勢が一発でわかります。「氏名と連絡先ください」と言う業者と、「日時と人数だけで大丈夫です」と言う業者では、個人情報リテラシーが全然違う。私は前者と契約したことがあって、案の定、後から社内共有のあり方でトラブルました。
見積もり時に何を伝えるかは見積もり依頼で伝える7項目の記事に整理してあるので、あわせて確認してもらえると発注時の情報の出し入れが揃います。
外国人ゲスト比率が高い物件で悩ましい点
ここまでの話で「渡さないのが正解」と書きましたが、正直、外国人比率が高い物件だと迷う場面が残ってます。清掃業者から「言語対応の関係で、事前にどの国のゲストか教えてほしい」と言われるケース。
国籍だけを伝えるのが個人情報保護法上どう評価されるかは、私も自信がない。単独では個人特定に至らないけれど、他の情報と組み合わせれば特定に至り得る。この場合は「必要最小限」の解釈が実務的に揺れるところで、法律家の意見を仰ぐか、そもそも国籍を伝えない運用に統一してしまうか、判断が分かれます。
私は今は伝えない側で運用してますが、多言語対応が売りの物件を持っている人は違う判断もあり得ると思っていて、ここは読者自身の状況で考えてほしいところです。個人情報保護委員会か、住まいの自治体の民泊窓口に一度確認してみるのが確実。
情報取扱いの体制がある程度整った清掃業者を見つけるのは、個人でゼロから探すとかなり時間がかかる。業者の候補を一度に比べたいなら、まず登録して条件を出してみるのが早いです。
よくある質問
清掃業者にゲストの氏名だけ伝えるのは違法ですか?
違法とは断定できないですが、清掃業務の遂行に必要な範囲かと聞かれると、氏名が必要な場面はほぼありません。個人情報保護法27条5項の委託の範囲は「利用目的の達成に必要な範囲内」に限定されていて、その必要性を説明できないなら渡さないのが安全です。心配なら個人情報保護委員会または自治体の民泊窓口に相談してください。
パスポートのコピーを清掃業者に渡すのはどうですか?
清掃業務にパスポート情報が必要な場面は現実的に想定できないので、渡すのは避けてください。旅券番号は住宅宿泊事業法施行規則で名簿記載事項に指定された機微性の高い個人情報で、行政や警察からの照会に備えて事業者が保管する前提のもの。清掃業者に共有する法的・実務的根拠は見当たりません。
清掃業者が忘れ物を見つけたときにゲストに直接連絡してもらうのはOKですか?
契約書で「忘れ物発生時に限り、オーナーの指示に基づきゲストへの連絡を認める」旨を明記し、連絡手段(電話/メッセージアプリ経由など)を限定するなら業務委託の範囲内と整理できます。ただし電話番号やメールアドレスを日常的に共有する状態は避けて、忘れ物が発生した時にのみ必要な情報を渡す運用にするのが安全です。
住宅宿泊管理業者に委託しています。清掃業者への情報提供もそちらの責任ですか?
住宅宿泊管理業者に管理を委託している場合、宿泊者名簿の作成・保存や個人情報の取扱いも管理業者側で行うのが通例です。ただし住宅宿泊事業者(オーナー)が最終的な法的責任を負う構造は変わらないので、管理業者と清掃業者の間でどのような情報がやり取りされているかを、契約書と実態の両面で確認しておくことをおすすめします。
過去に清掃業者に送ってしまった名簿データはどうすればいいですか?
まず業者に連絡して、既に共有した個人データを返却または破棄してもらい、完了報告を書面(メールでも可)で受け取ってください。既存の業務委託契約に情報取扱条項がなければ、覚書の形で追加するのが実務的です。もし漏えい等が疑われる状況なら、個人情報保護委員会への報告と本人通知が必要になる可能性があるため、法律事務所や自治体の相談窓口に早めに相談することをおすすめします。
宿泊者名簿の保存期間は何年ですか?
住宅宿泊事業法施行規則により、宿泊者名簿は作成した日から3年間の保存が義務付けられています。この期間中は住宅宿泊事業者(家主不在型では委託を受けた住宅宿泊管理業者)が管理主体となり、都道府県知事から提出を求められたときに応じられる状態で保管する必要があります。

